軸と周囲 –姿としての釣り合い-
陶芸家の仕事場は子供の頃からよく見てきた風景である。
轆轤に菊練りした粘土を叩きつけ、芯を取る作業から始まる。
「この作業がすごく難しく大切なのだ」とよく聞いた。初めは轆轤の回転に粘土の軸はぶれ、ゆらゆらと大きく動く。それらを固定したジグのように体全体を使って抑え込む。そうすると徐々に芯が取れていく。まるで暴れ馬がおとなしく調教されるようだ。回転していないかのように綺麗なコーン状の山が出来上がっていた。
そして轆轤の回転運動を利用し、芯の取れた山の真上から中心を押していくと粘土は周囲に広がり、その広がりを手で押さえながら見事に態を作っていく。不思議で見ていて気持ちの良い光景だった。
粘土の塊から器状の態を作るということは、軸と周囲が入れ替わったネガポジの関係が生まれるということになる。つまり、粘土の軸は中空となり周囲が形となる。
さらに器となった態は、空洞を孕んだドーナツ状の軸へと移行し、それら内外、つまり周囲に化粧や装飾が施され、焼成される。あくまでも私の個人的な妄想なのかもしれないが、この陶芸の軸と周囲が入れ替わる一連の流れにとても興味がある。
今回の個展では、「軸と周囲」と題された彫刻が展示構成の中心となる。それらの形態は身体と壺のイメージを合わせた形を軸/体幹とし、その周囲に建造物や植物、細胞や都市の構造など様々なモノの相似性から着目したイメージを集積し、枝振りや身振りとしての四肢、それらを支える構造体、内と外をつなぐ球体や板状の形体を構成要素とし、空間に伸びやかなでリズミカルな点や線、面、凹凸を築き、(人の)姿としての釣り合いを頼りに、像と化した彫刻となっている。そして陶芸の持つ物質が変化変容する時間は、この作品を表す上で重要な要素となっている。
その他には一握りの粘土を起点に手捻りで即興的に造形した像もいくつか展示する予定だ。中心が常に動く可塑的な粘土を手で握ったり伸ばしたり叩いたりして形を与え、方向性を決め、そこから同じく姿としての釣り合いを終点として像にしたものである。
Gallery21yo-jの吹き抜けた真っ白な空間の中で、これらの彫刻が軸となり、その周囲と関係することで、呼吸するような流体の動きが生まれるのではないかと期待している。
2021年6月 藤原彩人